古代ローマの戦闘方法のフィクションと実際

 このところリール動画(とその焼き直しのYouTube)に時間を取られている。それは古代ローマ軍団の戦闘方法をめぐっての世間一般、とりわけハリウッド式活劇場面に毒された見解、の全面否定に連動していて、興味深かったせいでもある。

 まあ映画やテレビではそうでなければ見せ場にならないからだろうが、両軍がいさましく激突する場面が乱戦で描かれるのがお約束となっている。フィクションがフィクションに輪をかけて描かれているのだが、事実を重ねていくと怪しくなってくる。たとえば、方陣の密集隊形で対決する古代では、方陣の最先頭集団は真っ先に戦死が運命付けられていたように見受けられるが、それではそこに立つ兵士はどのように選抜されたのだろうか。また両軍入り乱れての乱戦では、どれほどの時間戦闘能力が維持されえたのだろうか・・・、などなど。

 常々そんな疑問を持っていた私にとり、BBC・HBO共作のTVドラマ「ローマ」での冒頭部分は一度はなるほどと納得させられるものがあった。第13軍団の首席百人隊長ルキウス・ヴォレヌスが兵士の交代を笛を吹いて知らせている場面がそれであった。しかし笛は考古学的に出土していないし、今ではフィクションとされているようだ。

それらしき場面:この場面、昔はもっと煩瑣に見られたのだが・・・

 先に述べたリール動画を探して検索していて、偶然見つけたのが以下である:https://www.reddit.com/r/WarCollege/comments/gvdn0p/back_when_warsbattles_were_fought_with_hand_to/

 そこでの討論が示唆的だった、と思うのは私だけなのだろうか。そこでの論議をまとめると、第一に、現代の学説では、古代の戦闘は「パルス(脈動)型」の戦い方であった、つまり、映画のように兵士たちが絶え間なく切り合いを続けるような状況ではなく、両軍が一時的に激突し、一度陣形に戻ってから、再び突撃のために態勢を整えるという形だった。実際の戦闘における死者数は、多くの場合10%を超えることはほとんどなかった。

 考えてみると、ボクシングにしても3分間で区切って1分間のインターバルで、10回なり12回ラウンド制である。中世の模擬戦においても、Huluの番組「ナイトファイト」で、鈍い武器で2分間戦闘した後、全身プレートアーマーを着た戦闘員たちがどれほど疲弊しているかを見ても、映画のような乱闘は不可能である(https://www.hulu.jp/knight-fight/assets?ht=episode_sub&season_id=136801&so=ena)。

 共和政代や初期元首政のローマでは、正規軍団の最先端の兵士は長方形の楯を連ねて相手と対峙し、敵の突進を全身で止めることに専念、敵の動きを止めることができても、楯の隙間からグラドゥスを相手に突き刺すのがせいぜいだった。それで劣勢になった方が安全地帯まで後退して態勢を整え、そして再度ぶつかり合う、といった繰り返しだったと想定されている。Philip Sabin, The Face of Roman Battle, JRS90, 2000, pp.1-17の中で、次のように述べている。

 「ローマの戦いの多くにおいて、両軍の戦列は散発的に接触していたと考えられる。一方の軍が前方に押し出し、短時間かつ局地的な白兵戦が展開されるのだ。この激しい戦闘は、どちらか一方が劣勢に陥った時点で終わる。劣勢となった側の兵士たちは後退して『安全な距離』を確保し、その際、武器を振りかざして敵の追撃を牽制する。・・・ こうした、白兵戦を挟みながら続く動的な対峙状態は、しばらくの間続く。やがて一方の軍が抵抗力を完全に失うと、それまで保たれていた相互の牽制関係が崩壊する。すると、それまで抑圧されていた緊張や恐怖が爆発し、敵軍は一気に前進して本格的な殺戮を開始する――いわば、血に飢えた狂乱の状態へと変貌するのだ。こうした転換が起こる主な要因としては、戦列の突破による敗走兵のパニック、将軍の戦死といった心理的ショック、あるいは単に死傷者の増加や疲労の蓄積などが挙げられるだろう。」

 ローマ軍の楯が長方形だったこと、剣が短剣のグラドゥスだったことが、まずこの戦法に適応的だったことを立証しているだろう。

 さて、問題は元首政後期以降になると、楯は楕円形や円形に、剣は長剣のスパタに代わる。それが騎兵に対応しての変化だったことは容易に理解されるが、ではかつての密集隊形だった隊形は散兵隊形に変化したのであろうか。これについては次回を待ちたい。

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