新刊紹介『ウンコロジー入門』:トイレ噺(11)

 これも他をググっていたら偶然引っかかった:https://news.yahoo.co.jp/byline/iidaichishi/20191227-00156556/。井沢正名著、偕成社、2020/1、¥1650

 私はかねてよりトイレ問題に関心をもっていたので、この広告を見て即発注したところ、年末の繁忙期にもかかわらず、即翌日に届いた。すこぶる快腸、否、快調である。表紙から絵本なのかと思っていたら、前半白黒、中盤カラー図版を含めて、基本的には文字情報からなっていた。かつて納棺師ないし納棺夫という職業があることを映画「おくりびと」(2008年)で知ったが、今回本書で「糞土師」という言葉を学んだ。さりげなく現状に対する憤懣が表現されて、秀逸な命名である。

 私的に特に興味あった第2章「正しくたのしいノグソをしよう」をさっそく拝読。この章は表題とは裏腹の内容を含んで5節と1コラムからなっていて、最初の2節は「トイレに流したウンコのゆくえ」「ウンコの処理に必要なもの」で、要するに、水洗トイレになってどれほどの資源の無駄遣い、というか下水処理場での処理に不必要な電力・薬品類・重油が使われるようになったか、が述べられている。

 そして第4節で展開されている「災害時でもだいじょうぶ! ノグソの底力」は意表をついていてたいへん面白かった。最近多発している災害時に大問題となっているのが避難所でのトイレ問題である。そこで、私には意外な情報が色々あった。たとえば2016年の熊本地震での直接死は50名だったが、避難所住まいでの体調悪化で関連死した人は223名もいたこと、現在もっとも心配されている南海トラフ巨大地震が発生した場合、駿河湾の海岸沿いには全国の製紙工場の4割が集中しているので、紙の供給が大幅に減少する事態が予想されること、などなど。

 そして,著者の体験談:「東日本大震災ではわたしの住む町でも電気が5日間、水道は3週間も止まりました。周囲の人たちはトイレを流すために、側溝や沢から水を汲んで苦労していましたが、毎日葉っぱノグソのわたしは、普段通りにすごすことができたのです。」

 平和ボケのわが同胞は、美食のほうには蘊蓄を傾け大枚をはたいて一向に怪しまないのんきな日々を送っていらっしゃるが、その結果の生産物ウンコ問題にはいつまで目を閉じたままですませる気だろうか。

【追記】冒頭に示したウェブの最後の写真説明、大便の後始末の葉っぱとして「チガヤの穂はミンクのような肌触り」を読んで、思い出したことがある。昔読んだ本にイギリス(スコットランド?)ではそこらに生えている苔がビロード状の肌触りで尻拭きに使っていた、とあった。尻拭きについて、詳しくは同じ著者の『葉っぱのぐそをはじめよう』山と渓谷社、2017年にはカラー写真付きで詳しく紹介されていて、ありがたい。

 ただ、一点のみ気になることが。大便の件は詳しく論じられているが、もうひとつの小便に触れられていないような気が。その利用に関しては古代ローマの方がはるかに進んでいたということか(後から届いた『葉っぱのぐそをはじめよう』、pp.036-039,160、には簡単だがあった:しかも、苔の効用にまで触れてくれていたのには驚いた)。

 話は若干それるが、思い出しついでに。昔、児童学科や幼児教育学科に所属していたときの実験考古学での火起こしで行きついたのは、火きりぎねにウツギ(中空の空木)、火きりうすには桧(ひのき)、火口(ほくち)にはガマの穂が最適の道具だった。最初使っていた、あじさいの枝や杉板は消耗度が激しいのである。以下、参照:https://www.bepal.net/know-how/campfire/11639。但しここの説明で本当に肝腎なポイントがひとつ抜けている(これこそ企業秘密なのだが)。火きりうすに下図のように△の切れ目を入れ(そして、その頂点部分にひきりぎねを安定させるため○の窪みを浅く彫っ)ておくことである。私はこれを原始時代の女性器の性的三角形(駆け出し教師の私のバイブルのひとつ:木村重信『ヴィーナス以前』中公新書、1982、参照)と関連あると授業で説明してきた。天才的着想だと今でも自認してはばからないが、もっと想像力を駆使して言うと、ひょっとして大人の下卑た、ないしませた子供の、凸と凹の遊びの中からこの火起こしの技術が生まれたのではないか、と。

 またついでに書いておこう。原始美術史の大家木村先生たちには共通の欠落点がある。p.60の図27の女性裸像:タタール・パザルジックPazardzik(トラキア)出土と、マリア・ギンブタス(鶴岡真弓訳)『古ヨーロッパの神々』言叢社、1989(原著1974)、p.207の写真207-209、とを比較せよ。普通、女性裸像の写真は正面と側面が掲示されるが、裏面も見てみることで、実はこれらの「女性裸像」は、ある場合は男女性器を表現した「両性具有」であることがわかる、と私は確信している。これは本当に逆転の発想でヒョウタンからコマなのであるが。

【追記2】伊沢氏の別の本『くう・ねる・のぐそ:自然に「愛」のお返しを』ヤマケイ文庫、2014は、文庫本だから本文では白黒写真だったが、なんと末尾にカラー写真の綴じ込み付録があった(中古で入手したのだが未開封だった)。「危険度」表示も付してあり、立派な配慮と感じた。恐る恐る開封してみたがこのたびの『ウンコロジー入門』掲載レベルだった。

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