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HerculaneuminPictures、そしてPompeiiinPictures:遅報(13)

 今年の夏の現地調査は、エルコラーノでは我々は空振りだった。現地考古管理事務所の調査許可が我々の滞在期間には間に合わず、我らは一般観光客として入構するしかなかったのだ。それでも沈船博物館が開いていたし、折から開催されていた展示会に遭遇することができて、新収穫なしというわけでもなかった:私の最近の最大の注目場所「200年祭の家」Casa del Bicentenarioはまだ修復中だったし。

 ところで、10/3段階での情報によるとようやくエルコラーノの調査許可が出たそうで、今回はIV.1-2のCasa dell’ Atrio a mosaicoに入るようだ。ここはこのところずっと修復中で閉鎖されていた。それで今般検索かけたら、なんと標記のHPが新たに立ち上がっていて驚いた(HerculaneuminPictures:2018年5月かららしい)。これは表題からしてこれまでよく利用してきたPompeiiinPicturesの姉妹編で、同じ人たちJackie and Bob Dunnさん(ご夫婦かな)が作成されている。それもあって、元のポンペイのほうも覗いてみたのだが、なんと私にはよく理解できない理由なのだが、とにかくEUからイギリスが離脱したら、このHP、来年の1月1日をもってイギリス以外の者はみることできなくなるとの告知がされていて、かなりショック。これまでたいへん重宝してきただけに、これが本当なら大変残念なことです。

【後日談】偶然見つけた以下の2019/11/1のブログで最悪の情況は避けられたことが判明した:http://bloggingpompeii.blogspot.com/

【余談】ところであれこれ検索していたら、なななんと、我らがこっち方面でお世話になっている現地通訳女史がいつの間にかHPを、そして私が201△年に調査で入ったときのことを若干詳しくアップしておられました(そこの紹介はまだ時効でないので、パスしておきます。というのは、調査そのものは問題ないのですが、その中で、当方が申請もしていなかったのに、通訳女史が「みたい!」とお願いしたら、案内してくれていたベテランのクストーデ(鍵の管理人)さんいとも簡単にかぎ取って入れてくれたのが、なんと驚きの「パピルス荘」だったのです。これがイタリア! 頼むのが男だとこうはいかない、と一応やっかんでおこう。彼は、そこで発掘品の整理していたボローニャ大学のメンバーにも紹介してくれました(女性ばっか10名あまり。東洋人もいらっしゃった。中国系かな;遺跡の中では別行動の3人の男性メンバーにも遭遇して、握手)。
 いつも許可を取るのには苦労しているのですが(といっても、現地遺跡管理事務所との交渉で悪戦苦闘しているのは通訳女史なんですが:本当に感謝しないといけませんよね)、お役人のお偉いさんではなくて、現場の人たちの中にはこんな親切な人もいるのです(怖いよね)。逆にいうとこれまでの体験から、両者の間には深い断絶がある感じです。

 こっちは、公表していいかな。https://www.piazzaitalia.info/

 エルコラーノの許可とれなかったので、彼女が気配りして代わりにと紹介してくれたのが、ナポリ市内のアウグストゥスの水道渠遺跡。これの記事その気になったら書くかもです。それには東大のソンマ発掘地見学にも触れないといけないかな。

【追記】2020/3/22に試しに「PompeiiinPictures」に行ってみたら、健在でした。というより2月からエルコラーノやスタビアなどポンペイ周辺の遺跡すべてを含めて再出発していた(https://pompeiiinpictures.com/pompeiiinpictures/index.htm)。これで一安心。とりわけポンペイの新発掘「V」が詳細に公開されていて壮観。まだ一般公開されていないので、ありがたいことだ。それにしてもこの公表状況は、公式HP以上のすばらしさで、どうすればこんなことできるにか、不思議でしょうがない。よほどの信頼関係あるのだろう。

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やっと入手した文献、されど・・・

 2001年に出版された本をずっと求めていた。数年前にその存在を知ってから、古書検索して継続探査かけてきた。私が学位をいただいたテーマでの書籍だったので、なんとしても入手したかったものだ。著者のZahran女史は大学教育こそアメリカのコロンビア大学とイギリスのロンドン大学で、学位はフランスのソルボンヌ大学で取得したらしいのだが、生まれはイスラエルの版図内のパレスティナのRamallahなので、かのローマ皇帝と同郷というわけではないが、まずこれまでの研究者ではもっとも現地に近い出身、という点だけは間違いない。

 Yasmine Zahran, Philip the Arab : A Study in Prejudice, London, 2001, Pp.154.

 彼女は他にも、おなじころセプティミウス・セウェルスの伝記を書いていて、そっちの古書はまともに入手できたが、しかしどうしたことかフィリップス・アラプスのほうはなぜか手間取って、注文先の古書店からキャンセルしますか、継続しますか、と何度も問い合わせが届いていた。その度に継続お願いしますとやってきた。もう15年以上昔の出版なので絶版は当然としても、ハードカバー以外に紙装版も出ていたようだし、イギリスでの出版物が古書でもなかなか手に入らないのはどうも腑に落ちないのだが。先般渡伊中にまた問い合わせがあったので、試しにBookfinderで久々に検索してみたら、イギリスの古書店が出品していた。それで先のをキャンセルして改めて発注したのだが、問題はその値段で、$16.31の郵送料込みでなんと$700.60だったことだ。

 年金生活者にとってはとんでもない高価な買い物だったが、思い切って購入することにした。渡伊から帰ってきて、送られて来ていたモノをみれば、それほど高度に学術的な体裁とは思えない(史料もほぼ現代語訳使っているし)、ただアラビア語文獻も使っているようなので、これから読むのが楽しみなことではある。ただ処理する順番としてはかなり順位が落ちるのであるが。

 ところで、これには予期せぬ落ちがついてしまった。さっきOPACで検索かけたら、なんと筑波大学図書館が所蔵していたのである・・・。なんともはや、いや昔だって調べたはずだから、その時はなかったのでは・・・、こら、ぼけとんのか、という次第。大学間貸借で借り出して実物みたら、ぜったい購入する気にはならなかっただろうから、なおさらである。

 しかしともかく、ハードカバーのものなので、いずれ図書館に寄贈しようと思っている。なにしろ、7万円超の稀覯本なのであるからして。後続の研究者よ、是非利用して下さい。とほほ・・・

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2015年以降の私の研究業績リスト続編

 私が大学に勤務していたとき、「西洋古代史の部屋」と銘打ったHP掲載を許されていた。退職後にそれは当然すぐに消えると思い、前もって現在の「残照の古代ローマ」に主な記事を移動したのだが、なぜか元のHPも未だ生きている。ただ「プロフィール&研究業績」は2014年段階から更新していない。退職時に『上智史學』62, 2017, 5-10に「研究業績」が掲載されてはいるが、アクセス・データを見ていると時々HPの「研究業績」をご覧になっている人がいるので、その後を含めてここに追加リストを掲載しておくのも無意味ではあるまいと考えた(直接HPを修正すればいいようなものだが、私にとって簡便でないので、すみません)。連番はHPからの継続である。

【著書・共著・編著】

14.「はじめに」;「記念建造物の読み方:コンスタンティヌス帝の二大建造物をめぐって」;「あとがき」豊田編著『モノとヒトの新史料学:古代地中海世界と前近代メディア』勉誠出版, 2016年, iii-iv, 72-92;255-256.

15.「『七賢人の部屋』のフレスコ画をめぐって:トイレ,食堂,居酒屋,それとも脱衣所?」;「聖モンニカ顕彰碑文とオスティア」;「あとがき」坂口明・豊田編著『古代ローマの港町:オスティア・アンティカ研究の最前線』勉誠出版, A cura di Akira SAKIGUCHI e Koji TOYOTA, La città portuale di Roma antica:la prima linea della ricerca di Ostia Antica, 2017, 133-192; 285-296;399-402.

16.「北アフリカ、キリスト教からイスラームへ:研究の現状と問題点」三代川寛子編著『東方キリスト教諸教会:研究案内と基礎データ』明石書店, 2017, 498-507.

17.「人間アウグスティヌスを『告白』から探る」上智大学文学部史学科編『歴史家の調弦』上智大学出版, 2019, 217-235.

【学術論文】

47.翻訳(共訳:豊田, 任海守衛, 小口昌宏, 林俊明, 石川柊, 桒原真由美, 神津佳於里, 三井優一, 江添誠, 藤澤綾乃, 田之上優弥, 武田与史記, 元川士郎)「アウレリウス・ウィクトル『皇帝列伝』翻訳(1)」『上智史学』第60号, 2015年, 67-93.

48.翻訳(共訳:豊田, 桒原真由美, 生田初音, 林俊明, 藤澤綾乃, 三井優一, 江添誠)「アウレリウス・ウィクトル『皇帝列伝』翻訳(2)」『上智史学』第61号, 2016, 147-166.

49.翻訳(共訳:豊田, 桒原真由美, 生田初音, 林俊明, 藤澤綾乃, 三井優一, 江添誠)「アウレリウス・ウィクトル『皇帝列伝』翻訳(3)」『上智史学』第62号, 2017, 177-188.

50.「特集にあたって」;「三一二年のコンスタンティヌス軍」『軍事史学』54-2, 2018, 7-13;99-118.

51.翻訳(共訳:豊田, 桒原真由美, 林俊明, 三井優一, 江添誠)「アウレリウス・ウィクトル『皇帝列伝』翻訳(4)」『上智史学』第63号, 2018, 105-122.

52.翻訳(共訳:豊田, 桒原真由美, 林俊明, 三井優一, 江添誠)「アウレリウス・ウィクトル『皇帝列伝』翻訳(5)」『上智史学』第64号, 2019, 79-102.

【その他(書評等)】

31.「古代ローマ・トイレの落とし穴」『日本トイレ協会ニュース』No.15-1, 2015, 2-8.

32.「古代ローマ・トイレの落とし穴」『日本トイレ協会ニュース』No.15-2, 2015, 11-17

33.「裏切り者は誰だ!:コンスタンティヌス勝利のゲスな真実」『地中海学会月報』389, 2016, 4.

34.「自著を語る81『モノとヒトの新史料学:古代地中海世界と前近代メディア』勉誠出版」『地中海学会月報』393, 2016, 7.

35.豊田,坂井聰,坂田道生「石川氏のご批評に答える」『かいほう』No.130, 2016, 5-6.

36.豊田・堀賀貴監修・資料提供「最強!トイレ伝説第2回古代ローマ」『チャレンジ4年生わくわく発見BOOK』5月号, 2017, 12-13.

37.「書評:ジョイス・E・ソールズベリ著(後藤篤子監修・田畑賀世子訳)『ペルペトゥアの殉教:ローマ帝国に生きた若き死とその記憶』」『史林』102-4, 2019, 91-97.

38.「表紙説明 地中海の<競技>16:古代ローマの拳闘」『地中海学会月報』435, 2020/12, 8.

【学会発表等】

48. 奥山広規・西山要一・豊田「オスティア・アンティカ『七賢人の部屋』の文字調査報告」広島史学研究会大会, 平成27(2015)年10月25日, 広島大学(東広島市).

49. 奥山広規・西山要一・豊田「The Dipinti Survey of Ambiente dei Sette Sapienti at Ostia Antica (prompt report)」第2回連続国際シンポジウム「古代ローマの都市と建築:オスティアにおける都市、建築研究の最新動向」, 平成27(2015)年11月15日, キャンパスプラザ京都(京都市下京区).

50. 奥山広規・西山要一・豊田「オスティア遺跡『七賢人の部屋』の文字情報をめぐって」上智大学史学会大会, 平成27(2015)年11月22日, 上智大学(東京都千代田区).

51. 臨時司会(発表者:向井朋生・奥山広規)「文字史料 vs 考古資料:オスティア・アンティカ『七賢人の部屋』を例として」第66回日本西洋史学会古代史部会, 平成28(2016)年5月22日, 慶應義塾大学三田キャンパス(東京都港区).

52. 「戦勝顕彰碑としてのコンスタンティヌスのアーチ門」第68回日本西洋史学会大会古代史部会, 平成30(2018)年5月20日, 広島大学東千田キャンパス(広島市中区)

53. 立案・コーディネート(司会:坂口明;発表者:奥山広規, 堀賀貴, 江添誠;コメンテータ:志内一興, 渡部展也, 青木真兵) 第68回日本西洋史学会大会小シンポジウム・古代史「『見えざる人びと』の探し方:庶民史構築のために」平成30(2018)年5月20日, 広島大学東千田キャンパス(広島市中区).

54. 「コンスタンティヌス帝の保護神格再考:Apollo、Sol、それとも Grannus ? 」広島史学研究会大会西洋史部会, 平成30(2018)年10月28日, 広島大学(東広島市).

55. 奥山広規・ゲイル=エドワード・豊田「2018年度オスティア・グラフィッティ調査成果報告」第17回古代史研究会大会, 平成30(2018)年12月23日, 京都大学文学部(京都市左京区).

56.  奥山広規・ゲイル=エドワード・豊田「2017-2018年度オスティア・グラフィッティ調査報告」The Graffiti Survey Report at Ostia Antica in 2017 and 2018, 第3回連続国際シンポジウム「古代ローマの危機管理」平成31(2019)年3月17日, 日本橋ライフサイエンスビル(東京都中央区).

【付記】2021-23年の成果は、2023/5/8 にアップしてます。

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現代イタリアの新トイレ:トイレ噺(7)

 今回のイタリア旅行で2種類のトイレを発見?した。それは従来、イタリアの洗面所には便器関係では、普通の水洗トイレとビデが普通設置されているのだが、最近はビデがなくなり、シャワーホース状のものが付いていたりしていて、それはこれまでも見ていたが(今回も1箇所、フィミチーノ空港隣接のホテルがそれであったが、写真は取り忘れた)、下着が水浸しになりそうな気がして使ったことはない。

 今回新発見の一つはPompeiiのB&Bのもので、水洗トイレに水が出る穴が開いているもので、これは実際には水流が下に流れるだけでお尻に届かないので、手で洗うしかない(その意味でトイレとビデが合体しているといっていい)ものである。

流水中の状況:操作ノブは向かって左の壁にある

 もうひとつは、Romaのテルミニ近くのこじゃれたB&Bのもので、同じような場所に穴が位置しているのだが、こちらは出口に金属製のごく短いホースがちょんとばかり装着されているので、水流がお尻に達することができる。こちらは日本のシャワートイレと同様で、使用感もいい。いずれも便器のそばにノブがあってそれで水流(と温度)を操作する。

操作ノブは便器の向かって右:当然、左手にはビデ用手拭きがある

 それにしても、イタリアの水周りは故障が多い。一昔前はシャワー室の水はけがやたら悪くて、石鹸の泡を足につけて出ざるをえなかったのは稀でなかった。そして、今でも公衆便所は清潔とはいえない。私が今回ナポリ国立博物館前の地下鉄駅で試した公衆便所は、男女の区別がなく、すべて個室式でなんと20チェントコインで入る方式で、有料トイレは1ユーロが普通なので、なにかけっちっているなとは思い、まあこういうのは出るに出られなくなることあるのでこれまでは警戒して使ったことがなかったが、今回は同行者に万一の時のことを言い含めて試してみた(但し,同行者には私の意図は伝わっていなかったことが後から判明した)。さて、便座は当然ないので中腰で大を放出したあと、もちろん紙も常設されておらず、同行者がくれた「おしりセレブWET」を使って後始末し、水を流す段になって(10秒水が流れると使用ラベルには書いてあった)、ボタンを幾ら押しても出ない! まあそれもこれまでの経験で想定していた私はそのまま退出したわけである(どうすればいいというのかっ)。私が内から空けたドアがまだ開いている間に入れ違いに入ってみた中年女性は、覗いただけですぐに出てきた。これもまあ当然の風景である。

 以下の写真は、今回遭遇したエルコラーノ遺跡事務所内の男性立ちション用トイレで、3つ設置されているうち2つは使用不能であった。この状況は他でも決して稀でない。ついでに触れておくと、この時、女性トイレは長蛇の列であった。理由はもちろん私には確かめようもなく不明である。

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2019年度夏期調査旅行:歩数

 約2週間、例年通り現地調査でイタリアにいきました。本年度で科研が終わりますので、オスティア・アンティカ遺跡を古代ローマ時代の他の港湾都市と比較してみるという観点で、トリエステ、アクイレイア、ラヴェンナを加え、最後には落書き調査という視点でポンペイ、エルコラーノ、ナポリをめぐってきました。ここでは、とりあえず、いつもは家に閉じこもりがちな私がどれほど歩いたのかの目安にiPhoneの歩数記録を転写してみます。ザックに入れていたので正確ではないかもですが、一応の目安にはなるでしょう。

9/5  7554  成田に向かい、ローマに移動    
  6 21679  トリエステに移動、見学
  7 15384  午前中トリエステ見学、午後アクイレイアに移動  
  8 15374  アクイレイア見学
  9 12143  グラドー見学
 10 12969  ラヴェンナに移動
 11 19425  ラヴェンナ市内見学
 12 20371  クラッセ方面見学後、午後、ローマに移動
 13 18091  終日、フォロ・ロマーノ、パラティノ丘見学
 14 15747  オスティア遺跡
 15 18232  朝、ナポリに移動し、ナポリ国立考古学博物館見学後、ポンペイに移動
 16 31588  ポンペイ遺跡見学
 17 13376  エルコラーノ遺跡
 18  8977  東大ソンマ遺跡見学
 19 12224  ナポリ、アウグストゥス水道見学後、ローマ帰着
 20  7432  ローマ離陸 機内泊
 21  4137  成田着、昼頃帰宅

 ちなみに、体重は2Kg減でした。でも22,23日は家を出なかったので、歩数はゼロです (^^ゞ 明日は出る象。

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荒木優太編著『在野研究ビギナーズ:勝手にはじめる研究生活』:新刊案内

明石書房、2019/9/6出版予定、¥1944。

 今日、自宅に送られてきた『UP』(東大出版会)の巻末広告にあって、目についた。表紙(または帯)に書かれている文言がなかなかよろしい。私も今や立派な在野である。彼らの生き残り術から学びたい。もう、そんなに生き残れそうもないけど。

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 その後、以下もみつけた。礫川全次 『独学で歴史家になる方法』日本実業出版社、2018/11、¥1944。

 こちらのほうが、私的には身近でずばりである。だが、試しに前任校の所蔵を検索したがなかった。日本民俗学者である著者の他の著書は37冊もあったのだが。彼の糞尿や厠関係は私も知っていたが、本書も図書館に所蔵すべきであろう。試しにCiNii Books検索をかけたら、わずか9大学しか所蔵していなかった。どういうことなのか。所蔵大学の歴史関係の教師は、さぞや自分に自信があるのだろう、と思ってしまう。さっそく古書で発注した。

【続報】礫川(こいしかわ、と読む)氏の本は、やっぱり読んでいてはなから私の金銭、もとえ琴線に触れてくる文言が多い。第3講「私が『在野史家』を名乗るまで」を読んで、いかに自分が「在野」的感覚の持ち主だったのか、改めて自覚させられてしまった。第2講の末尾で「アカデミズムにおける歴史研究には、一定の好み、傾向といったものが存在するようです。別の言い方をすれば、プロの研究者が、好んで扱わないテーマがあるということです」として、例に挙げているのが、かつての李家(りのいえ、と読む:彼、たしか呉の出身だったよね)正文氏の「厠」「落書き」なのだから、私としてはなにをかいわんや、なのである。そしてこの「アカデミズム」の研究者というのは、一時話題となった「原発ムラの住人」よろしく、ムラ内での受け狙いで一生終える類いの人たちのことで、一歩外に出て世間に発言しても(ま、上から目線なので、最初から説得する気はないのが普通だが)、説得力ゼロの論理しか展開できないそういう人種である。社会人の一般常識は彼らに通じない。歴史上まあ枚挙にいとまないが、最近の事例だと関西電力のお偉方ということになろうか。

 第4講「『研究者』としての自覚を持とう」でも以下の下りに出会った。「消費者で終わるな」とは現役時代私も繰り返して言っていた文言そのものだった。

 「歴史愛好家は、いわば「知の消費者」という立場で、歴史を楽しんでいるわけです。・・・歴史研究者として「知の創造」に関わろうとされる以上、歴史愛好家時代の「消費者」的な意識は、払拭していただかなくてはなりません。」

 欧米の研究の「消費者」で留まってはいけません、よね。○○先生!

【追記】このブログに2019/8/21に書いた二・二六事件がらみの箇所があって、意表を突いていてとても面白かった。第10講である。

 本書を読み進めていく内に、段々と、この本は文学部史学科の必読文献、いやいわゆる史学概論、歴史学研究入門といった授業のテキストになり得る、という確信が強まってきた(内容的には、特に日本史専攻ということになるだろうが、そう限ることもないだろう)。実にいい本だ。いわゆるアカデミックな研究者にこのレベルが書けないという体たらくを、私も元関係者として苦く噛みしめなければならない。

【追記2】彼のブログを知った。1949年生まれらしいので、私より2歳若い。精力的である。https://blog.goo.ne.jp/514303

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 上記の荒木編著の本で知った以下の本が、わが図書室(である図書館)にあった。ポール・J・シルヴィア(高橋さきの訳)『できる研究者の論文生産術:どうすれば「たくさん」書けるのか』講談社、2015年。なぜか英語関係の棚だったので?だったが、言い回しの部分で英語表現がそのまま引用されているので、まあ納得。これはどうやら心理学の分野の著者のようだ。内容は、「いいわけはするな」と力説している最初を除いてあまり学ぶところはなかった。というか、ぴんとこない。やっぱり英語圏や心理学とは微妙に感覚がすれ違ってしっくりこないような気がする。同じ著者・翻訳者・出版社の『できる研究者の論文作成メソッド』は貸し出し中である。

 あれこれ検索していると、今度は医学系の先生の3部作もみつかった。これもわが図書室にそろいで所蔵されていた。よほどお悩みの同業者がいらっしゃるようだ。

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新刊案内『うんこのひみつ』:トイレ噺(6)

 私は徹頭徹尾、お下劣なのだろうか(はいそうです、とゼミの卒業生が一斉に唱和する声がきこえるような気がするが,気のせいか)。昨晩深夜セブンイレブンでおやつの冷菓を購入し支払い済まして帰ろうとしたとき、いつもは一顧だにせず素通りする週刊誌が置いてある出入り口の棚になぜか目がとまり・・・、そこで見つけたのが以下の本。さっそくレジに舞い戻って衝動的に購入。

 うんこミュージアム著・藤田紘一郎監修『うんこのひみつ』宝島社、2019/8/12、¥1200+消費税。

 こういう小冊子に条件反射的に引きつけられる私の特異体質にはつくづく感心するしかない。神業だ、こういうのを「付け焼き刃ではない」と表現するのだろう、と自画自賛して、どうする!

 帰宅してからしまったと思い、アマゾンで調べたらすでに古書で出ていて、しかし871円+郵送料340円だったから今回はまあ許すにしても、年金生活者にはこのような衝動買いは御法度だった。

 やるべき仕事を放り投げ、さっそく一読。残念ながら古代ローマ史にはふれてくれていないようだ。どうやら横浜やお台場で開催中の催しものの便乗品らしいが、うんこのプラス面に触れてくれているのには感激。私も一度は、まろやかになるというジャコウネコや象の糞のコーヒーを飲んでみたいものだ。

 それにしても、9/30まで会期延長された「うんこミュージアムYOKOHAMA」では,予約チケットで大人1600円、小学生未満は無料、とあるが、幼児並みによたよた歩きの年金生活者も無料にしてほしいなあ。もっと早く知っていたら夏休みの孫連れて見学にいったのに(お台場の会期は書いてないので、まさかの常設?)。

 詳しくは、キーワード検索したら出てくるHPをご覧下さい。

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研究に便利:合法的?外国語論文コピー入手法

 昨日も真夜中に、自宅からインターネットでリタイアした大学図書館リファレンスにアクセスし、2つの論文を他大学図書館にコピー依頼する手続きをした。自大学に所蔵がない書籍や雑誌でも、所蔵大学に貸借申込みや複写依頼をしてくれるのである。代価はコピー代と送料だけですむ。まだこの制度を利用できるのは大変有難い。

 国内に所蔵がない場合は海外の大学図書館への発注となり、従来の方法だと送金とかでかなり手間となるが、入手できた場合は研究上たいへん有効となる(一度だけだが、2ページくらいだったのでファックスで即送してくれたアメリカの大学があった)。今や、大学図書館がデータベース会社と一括契約していて、パソコン室からアクセスすると無料で印刷できるサービスとなっていて、昔と比べるとやたら便利になったものだ(むしろ同音異曲の内容の情報過多となり、時間との関わりで選択眼が試されている気がし出すほどで、こうなるともはや関連論文の網羅よりも、オリジナルな独創性に磨きをかけるほうが重要視されてしかるべきだと思う)。リファレンスの指導ではまずこれで試して下さい、というわけである。だが大学との接点を失った場合は、それも不可能となる。

 便利と言えば、特にアメリカで最近多いのだが、修論や学位論文がpdf化されていて自由に丸々コピーできることが多くなった。だからというわけでもないが、ウェブであれこれやっているうちに、妙なシステムに行き当たった。それが「Academia<updates@academia-mail.com>」である。自分の研究分野を登録しておくと、自動的に関連論文をリストアップして知らせてくれる。そしてどういう仕組みかは分からないが、時には書籍までも全ページがpdfで提供されているのだから驚かされる。問題は、リストアップの精度で、たとえば私はコンスタンティヌスを登録しているのだが、最近26件が送られて来た。その中に、一見無関係の『マルクス・アウレリウス』や『アグリッピナ』といった著作が丸ごと一冊含まれていて、なんだかありがたいような、でもつい目移りして眺めたり、すでに購入済みだったりするので、ありがた迷惑のような感じなのである。そしてこれは、対象が英語に限られているという点も問題だろう。よってたぶん英語圏の著者にリスト掲載の許諾を問い合わせた上での公開なのであろう。もちろん「無料」というわけにはいかない。年に約100ドル、月ごとだと10論文で9ドルくらい必要である。初回でもう十分送られて来た感じはするが、試しに1年間利用してみようと思う。新刊書のちょい読みでは、アマゾン・コムで部分的に見ることできるようになっているのも有難いサービスである。

 自宅でウェブ検索かけていると、他にもよく出てくるのが、「JSTOR」というサイトで、これも自宅でダウンロードすると一件12$程度かかるのだが、大学関係者である旨登録した上で「Read Online」にすると雑誌論文を無料で読むことができるサービスがある。ま、多少手間であるが、それをコピーする裏技を使えば普通通り印刷することもできるわけである(大学パソコン室でアクセスすれば、問題なくコピー入手できる)。

 そういえば、少し昔のこと、キー・ワードでウェブ検索していたら、pdf化された論文がズラーと出てきたことがあった。画質が荒かったり、コピー論文をちょっと斜めにスキャナでデジタル化した手造り感満載のものだったので、たぶん個人的に手持ち論文をアップしたものだったのだろう。こちらはもちろん無料だったが、やっぱり著作権上の問題があったのか、それとも検索キーワードが特化されていたせいか、二度とお目にかかっていない。

【追記:20211118】このブログ、まだときどき読まれているようなので、付記しておく。最近の翻訳ソフトは論文をざっと読むには十分便利なほどの精度を持っている(但し、私の経験だと、「;」「:」のあととかが欠訳となる事例に遭遇)。一般にはGoogle翻訳の評価が高いが、私は知人から推奨されたDeepLを使っている。とにかく翻訳時に私の場合、日本語入力の打ち込みにやたらエネルギーが費消されていたので、その手間が省けるようになったのには大助かりである。

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欧米最新トイレ?:トイレ噺(5)

 私がリタイア後もまだ入っている学会に「日本トイレ協会」がある。そのニュースが届いた。それに面白い記事が掲載されていた。

 会員で著名人の白倉女史が2018/11/19-23に南アフリカ共和国のケープタウンで開催された国際学会に参加し、フィンランドの専門家が大便と小便を別々に回収してリサイクルする家屋事例等を発表した由で、その写真があったのでここでそっと紹介してみます。

 みそは、リサイクルの内容だと思うが、それは書かれていない。しかし、二穴ということは、それぞれ回収するわけで、となるとどこにどう集めるのだろうか。これではなんだか古代ローマにおける尿と大便の利用と一脈通じるものがあるように思う。かつて、前者は縮充作業や洗濯に、後者はいうまでもなく肥料に再利用された。今回のこれはいかなる再利用が考えられているのだろうか。

【追伸】上記の白倉女史が世界のトイレ問題改善のために、トイレ・ピアス、根付、ネックレスといった「トイレ・アクセサリー」の販売を始めるようです。興味のあるかたは売り上げにご協力ください。私も買おうと思ってます、いえ、付けて歩こうなどという趣味はありませんが。https://japanese-stuff.com

【追伸2】上記のお店はまだ開店していないが、トイレ・ピアスは楽天で販売しているようです。https://item.rakuten.co.jp/mixnuts/shk-s-00532xx/

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古代ローマ時代の偽金作り

 いつもコイン・オークションをチェックしているCNGで、興味深いものが出品された。なんと本来門外不出のはずのローマ貨幣の金型、いやその偽物である。私がこれに注目したのは、表側がMaxentius帝(在位307-312年:但し僭称)、裏側がSol神の、Lugdunum第1工房打刻のfollis貨幣と、なんとも矛盾だらけのデザインだったからである。しかもこの一物、打刻用の金型ではなく、青銅を溶かして流し込む鋳造用のものであったかもしれず(そのための湯口が確認できないが)。その場合、必然的に印影は打刻よりも浅くなったはずで、贋物と見破られないためには、まあ経年劣化を装うしかなかったかもである。

カタログ掲載写真:https://www.cngcoins.com/Coin.aspx?CoinID=389004
試しに水平方向で逆転してみたが・・・、とりあえず読めない文字が多い

 表面の刻印は、最初と最後がはっきり読めないが、おそらくIMP MAXENTIVS PF AVG(皇帝・マクセンティウス・敬虔・幸運・正帝)だった可能性が大。裏面の、コイン外縁は類例から、SOL INVICTO COMITI(太陽神・不敗・[皇帝の]僚友)か。そしてその所作と持物からSol神を示す中央神像の両脇にFとTが(これらの正確な意味は不明)、さらに神像足下の3文字はかろうじて「PLG」と読め、これは、Prima [fabrica 第1工房]・LuGdunum と製造地と造幣工房を示している。この表面と裏面が同一コインのそれだったかどうかは、私にするとはなはだ疑問。

 入手できたら粘土ででも型をとって、文字を正確に読み取りたい。オークションの最終日は9/4。なんとか安く落札したいものである(業者評価額150ドル)。

【追記】明日でこのオークションは終わるが、今日になってやたら吊り上げるライバルが登場し、現在240ドル。次のビッドは20ドルアップになるから、手数料込みだと3万円台になること必定なので、この段階で撤退。無念なり。

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