奥山俊宏『秘密解除:ロッキード事件』を読む

 昔、マッカーサーが更迭されて帰国したとき、日本国民は彼との別れを惜しみ、日本政府は彼に「終身国賓待遇の贈呈」や「マッカーサー記念館」建設計画も浮上したのだが、彼のアメリカ議会証言での「現代文明を基準とするならば、我ら(アングロサクソン)が45歳の年齢に達しているのと比較して日本人は12歳の少年のようなものです」との発言が伝えられると、急激に彼の人気は落ち込み、60万円の宣伝費をかけて集まった募金はわずか84,000円と惨憺たるありさまだった。1年後には募金どころか借金が300万円まで膨らみ、計画はすべて立ち消えになった(ウィキペディアによる)。

 奥山俊宏『秘密解除』岩波書店、2016年、を読んでそれを思い出してしまった。副題に「田中角栄はなぜアメリカに嫌われたのか」とついているが、私的にはそれよりも重要と思われたのは以下だ。日本のマスコミや研究者には日本的な思考回路が固着していて、自ずと日本人が理解した受け取り方をしているわけだが、それは決して外国人、とりわけ今の場合だとアメリカ人の認識と一致しているわけではない。そのことを本書でいやというほど痛感させられたのである。

 本書の最大の見どころと功績は、解禁された米国公文書を丹念に繙いて、たとえば大統領との会話の中でのキッシンジャーの生の声を我々に伝えてくれたことである。その分わかり易い日本語になっていないわけだが(当然、日常語として反語や皮肉、諧謔的なジョークがふんだんに含まれる)、そこから透けて見えてくるものがある。それでなくとも外交の表舞台では美辞麗句が羅列されるのだが、彼らの本音はそこで明かされているわけではない。なのに日本側は言葉の表面だけ捉えているので、こりゃあかんわという感じになる。日本の首相に関する彼らの評価がいかに辛辣であったか、それを日本政府はもとよりマスメディアは正しく国民に伝えることができなかった、それを今回の読書で私は痛感することとなった。未だ十二歳なのだ。

 今も状況は依然としていささかも変わっていないはずだ。岸田さん、外遊でにやけてる場合ではないですよ。いやもう裸の王様状態かな。

 本書は今度、岩波現代文庫で再刊されるらしい。一読をお勧めする。

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