「古代ローマ・トイレの落とし穴、その1」補遺

 今年の11/13に海外発注していた本が届いた(Ed. by Stefanie Hoss, LATRINAE : Roman Toilets in the Northwestern Provinces of the Roman Empire, Archaeopress Roman Archaeology, 31, 2018)。もろ円安影響で約1万円弱かかったのだが、副題的にはすぐさま利用価値はないけどと思いつつ、まあ念のためとりあえず入手しておこうと思った本である。

 届いてみると全部で150ページ程度の薄いA4版だった。パラパラめくっていて、導入的なGemma Jansen論文をどっかでみた写真が多いなとながめたり、あ、かつてブログで触れたことあるNijmegenの木造トイレも出ているぞ、と気づいたり、小便壺の話も出ていて意外と最新情報を掲載しているなと、あれこれ興味を持って見ているうちに、ふと一枚だけついていた冒頭のカラー口絵に目がいった。一見してえっと思ったのは、それがなんだかトイレで兵士たちが食事している、という感じの復元想像図だったからである。

 しかし、である。下に書かれているキャプションを読むと、それはBearsden(スコットランドのグラスゴーの北)、即ちアントニヌス・ピウスの長城の砦の一つでのトイレの様子の再現図で、最初私には食物に見えたものは「moss」すなわちコケとなっていた。となると…、こりゃ捨ておけない。この本でDavid Breeze論稿がそれを扱っていたので、さっそく読むはめになってしまった。Bearsdenの位置は下図左から6番目。

 意地の悪いことに、その論稿の最後の最後にようやく以下が書かれていた(p.22)。The discovery of fragments of mosses in the outer annexe ditch suggests that this material may have been used for personal cleanliness, being dipped into the open channel running round the interior of the latrine. すなわち「外の別棟の溝でコケの破片が発見されたことは、この物質がトイレ内を走る無蓋の水路にちょっと浸されて、(大便の後始末として)個人の清潔のために使用された可能性があることを示唆している」。コケなんかどう紛れていてもおかしくないのでは、と思うのが普通だろうが、私が興奮したのには以下の子細があったからだ。

 ローマ時代のトイレでの大便の「落とし紙」に何を使っていたか、という「大」?問題に連結するわけであるが、地中海世界では海綿を使っていたのだが、スコットランドではコケを使っていたとどっかで読んだ記憶あると(翻訳ものの文庫本だったと思う)、かつて私の小論「落とし穴、その1」の冒頭で書いていた件が(https://www.koji007.tokyo/atelier/column_roma_toilette1/)、これにてめでたく立証されたので、1万円だけの価値あったというべきか。

 ところで、地中海世界での古代のトイレで海綿が発見されたという報告を私はこれまで寡聞にして知らない。上記のコケは土壌の成分分析して判明したのだろうが、同様のことを新発掘の地中海でも試みてほしいと思う。私は多分出てこないとタカを括っているが。

 しかし、足元を走る溝が本当に尻拭きに使われていたのかどうかとか、まだまだ未解決の問題が山積みのトイレ問題である。

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