ローマ宮廷のトイレ(1)「ドミティアヌスの傾斜路」Rampa domizianea:トイレ噺(13)

 2015年の冬、オスティア調査の合間を縫って一日フォロ・ロマーノを再訪し歩き回った。ウェスタ神殿の南の、いつもは閉まっている「40人殉教者礼拝堂」Oratorio di XL Martyres(地図番号12付近)が開いていたので、こりゃ見逃せないと突入した。そこには中世の壁画があって、そこを拝見して出てひょいと左側を見ると30年間ずっと閉鎖され続けていたSanta Maria Antiqua教会(翌年公開された)の入り口をふさいで「MOSTRA / LA RAMPA / IMPERIALE / 20 OTTOBRE 2015-10 GENNAIO 2016」と書かれた目立たない白い立て看が目に入った。その時は意味もわからず4か月限定で何があるんだろうと歩み寄ると、その前で東西を走る通路に出て、目と鼻の先の東の端はパラティヌスの宮殿の丘に接して行き止まりで巨大な円筒型天井の構造物が。そこの右にガラス張りの入り口があって、番人もおらず中に入る。

Santa Maria Antiqua教会は9の先の1−5;6がRampa
正面左が「8」のOratorio di XL Martyres:その背後右上がRampaを登り切ったところの展望台
正面が「9」への入り口:その前を左に向かうと
「6」への入り口

 そこで展開した風景はなんとも奇妙な光景だった。ひたすら細長〜く高い天井が南への緩やかな上り坂の空間を支えている。そしてその坂の行き止まりまで行くと左折してさらに坂道が上に。そこを登り切って外に出て、今度は露天(現況)でまた左に折れて坂が続く。最後の綴れ折りを登り切ると展望台(現況)に出る。往事はそこから右にパラティヌス丘に出る道があったに違いない。すなわちこの綴れ折の坂道は、丘の上の宮殿からフォロ・ロマーノに通じる、おそらく皇帝専用の通路だったのである。

関係断面図
入り口から通路を見る:壁を隔てて左側の部屋は出土遺物展示室、右側がSanta Maria Antiqua教会
最初の綴れ折:右が上への坂道
2つ目の綴れ折
3つ目の綴れ折
上空からのRampaの眺望:左上が展望台とパラティヌス丘の地面、右の奥まった建物がSanta Maria Antiqua教会
展望台での西から北の眺望:左手前のギリシア十字型の屋根がOratorio di XL Martyres

 そこから帰りに来た道を下っていくと、一階の最初の綴れ折の隅に妙な構造物があることに気付いた(というのは嘘で、そこに向けてライトが点いているので登りの時にもう分かっていた)。まず左壁に沿って走る溝の遺構があり、その先に階段と囲いが見える。目を凝らしてみると、奥の奥になんと二人分の便座が設置可能な空間が飛び込んできたのである(実際には進入禁止の綱があるので接近して見ることはできない)。

壁沿いに溝が走って暗渠の中、すなわちトイレへと水を導く仕組みになっている
遺物の現況:この箇所は、現状までに幾度か改修されている:以下の写真や復元図は、a cura di Patrizia Fortini, La rampa imperiale:scavi e restauri tra foro romano e palatino, Electa, 2015, p.91-99.

正面奥の平石2枚はトイレの足台:上部構造は残っていない。

 このトイレは、皇帝専用だったのかもしれないが、それにしてはちょっと豪華さが足らないような気がする。とまれ、このトイレについては欧米の専門家たちも知らなかったようで、これまで誰も触れていない新知見ということになる。

 これ以降、渡伊の折に毎回訪れているが、Santa Maria Antiquaともどもずっと公開されていた(但し、公開初年の2016年にはレザー光線での3D映像などあったが、それはない)。しかし2019年夏、入場券売り場でそれらの見学も可能のはずの「Pass Super」を購入したのだが、なぜかタッチの差で見学が叶わなかった。午後は駄目になったのであろうか。

【メモ】パラティヌス丘には、ものの本で言及されているトイレが他に2箇所はあるらしいが、非公開で筆者未見である。毎年再訪のたびに奇跡の僥倖を願って寄っている。だから(2)とか(3)の続きがいつになるかは、不明。

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