アナトリアで初見の「善き牧者」を描いた墓室発見

2025/12/11:https://www.thehistoryblog.com/archives/74873#comments

正面が北壁           修復作業

 トルコのブルサ県Bursa province、古代都市ニカイアNicaea(現在のイズニク Iznik)の、街の北東約3キロメートルの地点のヒサルデレ墓地Hisardere Necropoliの石室墓で、「善き羊飼い」として描かれたイエスを描いた希少なフレスコ画が発見されたと、トルコ・トゥデイ紙が報じた。研究者たちは、このフレスコ画がアナトリア地方でこれまでに確認されたこの種のフレスコ画の唯一の例であると考えており、トルコおよび世界の考古学にとって極めて重要な発見である。

 ⬆イスタンブル     ⬆イズニク                       ヒサルデレ⬆

背景

 この発見は、2025年がニカイアで開催された第1回公会議から1700周年に当たる節目に行われた。ヒサルデレ墓地は、2世紀から5世紀にかけて、イズニクの裕福な家系と恵まれない社会階層の両方によって埋葬地として利用されていた。遺跡には様々なタイプの墓があり、その中にはイズニク地域の特徴と考えられているテラコッタの板で覆われた石室墓chamber tombsも含まれている。

 2025年の発掘調査期間中に発見され、新たに記録されたこの石室墓(hypogeum)は、そのフレスコ画で特に注目を集めている。この構造は南北方向に伸びていて、南壁は深刻な損傷を受けているものの、東壁、西壁、北壁、そして天井はほぼ完全に保存されており、装飾の詳細な調査が可能となっている。この地域の他の壁画墓とは異なり、このハイポジウムには人物像が描かれており、地元の葬祭風景の中で際立っている。

 北壁には、死者を横たえるために使われた、正方形のテラコッタタイルで覆われた「kline」と呼ばれる高台が確認された。この基壇のすぐ後ろ、同じ壁には、珍しい善き羊飼いの構図が保存されている。

ローマ様式

羊ではなく山羊なのが面白い

 善き羊飼いの場面は、簡素なチュニックをまとった、髭のない若々しいイエス・キリストを描いている。肩には角のある大きな山羊を担ぎ、その両側には一対の山羊が対称的に配置され、構図を完成させている。研究者たちは、この作品はこの地域において、イエス・キリストがローマ独特の芸術様式で描かれた稀有な例の一つであると指摘している。さらに、ヒサルデレ墓地遺跡内の墓でキリストの肖像が確認されたのは今回が初めてであり、アナトリアにおける初期キリスト教の視覚文化の研究にとって、この発見の重要性をさらに高めている。

年代と重要性

墓内からは年代を直接特定できる遺物は発見されなかったものの、その構造的特徴は、この墓地で既に知られている他の墓とよく一致している。このことから、この墓は3世紀に遡り、初期キリスト教時代に遡ると考えられる。この年代と、アナトリアで唯一知られている善き羊飼いの場面が保存されている可能性が高いという事実から、この墓はこの地域で記録されている初期キリスト教建造物の中でも最も注目すべきものの一つとされている。

西壁:埋葬されている夫婦のフレスコ画と思われる
kline上の残存遺骸
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