違法サイトの研究使用、に思うこと

 以前書いたことがあるが、必要論文名を打ち込んでインターネットをググっていると、pdfで論文が無料で入手できる場合がある。もちろん有料のサイトもあるが、それは個人で契約してなんとかなる値段と、大学図書館が契約していてそれ経由だと無料となる場合もある。私はもちろん両方利用しているが、基本大学に登学して印刷するやり方から、最近はデータを降ろす方法をとっている。というのは大学図書館でアクセスするとデジタル版が入手できて、それを自宅に持ち帰って翻訳ソフトにかけることができてやたら便利だからだ。私の場合、これまで精確な文意を把握するため全訳作成を旨としてしたので(私のド頭だと誌面のざっと読みでは誤読したり、読んだところを忘れ果てたりするので)、これまでだと訳文をワープロで打ち込む手間にとんでもない労力と時間を必要としていた。emperorを「天皇」と訳してしまう簡易翻訳であっても、「;」のあとの文が飛んでしまう簡易翻訳であっても、二行にわたって「-」がついている単語を修正しなければいけない簡易翻訳であっても、瞬時に邦訳が印字される便利さは何物にも代え難い便利さである(他方で視力への負担はおびただしい)。もちろん肝心な箇所は原文に当たって修正するのはいうまでもないが(とはいえ、そんな箇所の手直しはやはり難しい)。

 デジタルの毎日新聞で以下が舞い込んできた。2023/6/6:鳥井真平「違法な論文海賊版サイト 便利だけれど「やばいかな」」。そこで話題になっていたsci-hubにはこれまでお世話になったことはないはずだが、まともにやると一本コピーを注文すると25€要求されたりするので、円安もあって年金生活者の懐でははなはだこたえるので、まとめて大学図書館に行ったとき降ろしている。すぐに読めないのは新鮮さとしてはつらいのだが、かつて3か月後に発注図書が届いたのと較べると、有難いことには違いない(届いた頃はもう関心が別に移っているのが普通なのです)。

 あれは今から20年以上前のことだったろうか、大学で図書館委員やっていたとき、所属大学の図書費予算のなんと半額が研究雑誌の購読料に取られて(しかも高額雑誌の大部分は実は学内で圧倒的に赤字学部の理系だった)、通常の書籍購入が圧迫されていたことが報告された。その時大学が取った対策は、不要不急の研究雑誌や、他大学などからコピーが取れる著名な紙の研究雑誌の講読廃止で、各学科に削減目標数が提示されたことがあった。赤字学部の理系のあおりを受けて文系まで削減かと怒って見せたことがあったが、それとて実際には焼け石に水だったはずだ。かくのごとく、一方で研究費の削減、他方で研究雑誌の高騰という現実あって、それをどう解消していくのか、すでにその頃から問題であったのだ。

 私が考えついたのは、文科省の下部団体でそのような著作権問題を解消するシステムを構築することだった。音楽のような著作権料を自動的に払えば降ろせる、といったシステムだ。大昔に危機感もったお役所がなんたらセンターを設置したので、早晩何らかの手が打たれるはずと大いに期待したのだが、未だ動きはない。研究水準の低下が言われてこれも久しいが、今ポストに座っているお役人は日常業務の消化で満足して、やらなければならない制度改革で汗を流す気はどうやらないようだ。ああ、「官僚の夏」の時代がなつかしい。

 今でも図書館経由で他大学にコピーを申請すると、1枚45円くらいのコピー代と郵送料がかかる。相互貸借で本自体を送付してもらうと往復1200円を超える郵送料金がかかる。前者だとデジタルで送れば無料だし(実際には図書館間でそれでやっているはずだ:特に海外の大学図書館なんかとは)、後者でもそれができれば問題ないが(私はオパックの調査不足で今でも時々やらかすのだが、ケンブリッジ大学出版会の本とか、版権切れた本がアップされたりしていて、それらだったら図書館経由で無料でみることもダウンすることもできるが[VPNを使用すれば自宅からでも可能らしい]、そうなると今度はコピーの年間使用枚数[我が社だと700枚と記憶する]がネックとなったり、総ページの半分しかコピーできない場合が出てくる)、もっと安くできないものかといつも思っている。

 こういった公的研究助成の仕組みがないかぎり、論文海賊サイトは繁盛し続けるはずだ。現在私は学際的な世界に頭を突っ込んでいるので、無料でコピーできる学術サイトは本当にありがたい存在なのである。

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