象とラクダ:オスティア謎めぐり(10)

 オスティアがらみのお役人関係を探っていて、面白いテーマを見つけた(いまさらだけど (^^ゞ)。

 オスティアのネクロポリス(って、イゾラ・サクラ? それともローマ門?)からフラウィウス朝時代の宮廷解放奴隷 T.Flavius Stephanusの葬祭碑文が出土して、銘文には彼の官職名「PRAEPOSITO / CAMELLORVM」が、そしてその下部に鼻でX形状の二本の棒を操っているらしい象一頭と、その両側にラクダが対で描かれている(https://www.ostia-antica.org/severiana/severiana-10.htm)。彼は、オスティア近隣のLaurentum(昔のラウィニウムに近いラティウムの森:ユウェナリス『諷刺詩』XII.100:arboribus Rutulis et Turni pascitur agro)にあったと想定されている野獣収容施設で、ラクダの飼育管理に従事していたのだろう。フラウィウス朝となると帝都ローマの円形闘技場の落成公演やドミティアヌスの競技好きとかで、野獣の需要は半端でなかったはずなので、この施設、さぞや大規模だったのだろうと想像してしまう。

銘文下部に描かれた動物たち

 もちろん、オスティア遺跡内の協同組合広場のStatio 14と28にはモザイクで象が描かれているし、この広場からやっぱり象が登場する落書きも3例発見されている(https://www.ostia-antica.org/piazzale/p-contents-inscriptions-frames.htm)。

 さらに1935年には、いわゆる「小プリニウスの別荘」の北1500mから、一頭の象の骨格(化石ではない)が発掘されたほか、オスティアの北西部の小川の近くから一頭のラクダの骨も出土した由(こっちは写真等未確認)。ひょっとして、このラクダ、見世物だけではなく運搬にも利用されていたのかもしれない。

これは象さんのほうの骨

 そういえばコンスタンティヌスのアーチ門西側レリーフにもラクダが描かれているが、これはトリーアからのローマ遠征軍での使役獣だった。また、エルコラーノの遺跡からも(V.1:Casa Sannitica)コブなしだがラクダらしき落書きが出てきている。これはラクダが珍しくないからなのか、珍しかったからなのか。

、コンスタンティヌスのアーチ門;、ヘルクラネウム、V.1

 またポルトゥスからは、ライオンの入っている檻を運んでいる船がオスティア灯台を通過しているレリーフも発掘されている。

 こうして、帝都ローマでの野獣狩りが、考古学遺物からも立証されたわけである。なにより、地中海対岸から運び込まれた野獣たちの収容施設がオスティア近郊にあって、それなりに厳重に管理されていたことを知ったのはいい勉強だった。

【追記】別件で探索していて偶然見つけた。「Ivan Bogdanovi, A Camel Skeleton from the Viminacium Amphitheatre」(file:///Users/kojitoyota/Downloads/VukovicS.andBogdanovicI.-AcamelskeletonfromtheViminaciumamphitheatre.pdf

 それによるとラクダの遺骸は、イタリア、イベリア半島、フランス、ベルギー、 スイス、ドイツ、イングランド、オーストリア、スロベニア、ハンガリー、セルビア、ウクライナおよびブルガリアのローマ時代の遺跡、要するにローマ帝国全域で発見されていて、Viminacium地域では実に14、そのうち13は円形闘技場で、そしてすべてはフタコブ・ラクダとその雑種であり、ヒトコブ・ラクダは発見されていない由である。生息地からすると若干意外で奇妙な出土結果としか思えないが、ご当地ではフタコブ・ラクダのほうがより珍しかったからこそなのかもしれない。それにしても、小アシア半島なんかがフタコブ・ラクダ生息地だったとは知らなかった(これって、ひょっとして現代の?)。

生息地:、ヒトコブ・ラクダ;、フタコブ・ラクダ

 別件でたまたま目についた以下は、イスラエルのガリラヤ湖西岸に位置するフコークHuquqのシナゴーグの、ノアの方舟に動物たちが雄雌一対づつ乗船する場面を描いた舗床モザイクであるが、まあ地域的にも当然のことながら、ヒトコブ・ラクダが描かれている。右の大きなネズミ・ミッキーマウスと見まごうのは象なんだよな。耳が立っているのが変。

2012年発掘、5世紀の作
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