イタリア情報:ブログの消長と坂本鉄男先生

 イタリアの情報(私の場合、言うまでもなく歴史とか考古学関係)を得るのにこれまでたいへん役立ってきたブログにcucciolaさんによる「ルネサンスのセレブたち」があった。現地の新聞や雑誌からのトピックスの紹介がすばらしかった。書き手の女性はたぶん美術系で、イタリア人と結婚されてCastelli Romaniにお住まいであった。私にとっても貴重な情報をたくさん掲載されていたが(関係分は保存している、はず)、先日行ってみると休止の掲示があって、なぜか過去ログも全部読めなくなっていたので、単純な休止とは思えない。理由は不明ながら、私的には著作権侵害などでの中断でないことを念じている(こっちも居直って危ない橋を渡っているので(^^ゞ)。再開を心待ちにしている次第。なにしろ退職してそれまで継続的に購入していた考古学関係の一般向け雑誌を打ち切ったので、なおさらである。

【追伸】cucciolaさんのツィッター(自己紹介「小食で下戸、なのに食文化に興味津々の一主婦」)は、2014/1から始まり、今年の6/2まで書き継がれていて、未だ読めることを確認。これだけでも相当量の情報だ:https://twitter.com/cucciola1007(その中でお名前とお写真も入手できたが、一般人であらしゃるのでここでの掲載は思いとどまっておこう)。

 他にも「ダ・ヴィンチの食堂」をお書きになっている(いた、というべきか)。2017/6/3の「すさまじきもの イタリアのコネ社会:連載」(http://circus-magazine.net/posts/2637)をご覧あれ。こういう感性、私は大好きなのである。

 このように、ブログは書き手の都合で突然終わる運命を辿る。たとえば、今は昔、パソコン通信時代から古代ローマ史関係の書き込みが盛んにされていた「古代ローマ」(http://www.augustus.to/:2000/8以降)は、2000/8/18からaugustus氏主催で始まったが、まだ昔の過去ログが読める。途中から髙島某氏が盛んに出版情報を掲載しだして、たいへん賑わっていたが、2012/11月に彼の書き込みが前触れもなく中断すると、ぴたりと書き込みがなくなり、1年に3通ほどが続き、とうとう2018/2以降現在まで投稿はひとつもない。また、それが掲載しているリンク先36(玉石混合ながら)中,20年後の現在も見ることできるのは10となっていて(継続更新しているものはもっと少ない)、その半数は海外の検索サイトである。ここからも、残念ながら我が国のデータ蓄積力の底の浅さを感じざるを得ない。いつになったらシステマティックな構築がなされるようになるのやら。心許ないことである。

 それに代わって新顔が現れていないわけではないが、どれもこれも短命で開店休業ばかりのようだ。どうも我が国の研究者は、小規模な個人商店の認識しかないようで、それでは記事的に片寄っていて読者には面白くなくて、しかも早晩息切れしてしまうわけである(このブログもご同類には違いないが)。

 そんな中で、いつからか始められたのか存じ上げていないが、坂本鉄男先生がずっと産経新聞に隔週(昔は毎週)の火曜日に「外信コラム:イタリア便り」を書かれていて、今も継続されていて、市井のイタリア的感覚を発信し続けていらっしゃる(たまに新聞記者と誤解されて叩かれているが)。私はかつてウェブで産経新聞が無料だったときからこのコラムを愛読していたが、産経の無料が終わって、しかし今は日伊協会のHPで若干の遅れはあるが読むことができるのは有難い(https://www.aigtokyo.or.jp/?cat=27:但し、現在は2010年11月以降のもの:私はそれを2009年 11月15日からすべて保存している)。それはこんな話で始まっている。

彼がまだ現役だったころのお写真

坂本鉄男 イタリア便り 犬と外国語

    イタリアの有力紙の一つによると、犬は人間の2歳から2歳半の幼児と同じ頭脳を持つという。また、一番頭のよい犬種は「名犬ラッシー」の種類のコリーで、次いでプードル、シェパードの順になるらしい。  ここで、「犬と外国語」について私の経験をお伝えしたい。  約30年ほど前、ローマで真っ白な縫いぐるみのようなかわいい子犬を購入したことがある。購入直後、わが家を訪問した当時のローマ市立動物園の園長氏が子犬を見るなり「この犬は羊の群れを守るためオオカミと闘ったことで有名なマレンマ犬だ。体重は30キロ以上になりますよ」という。   しかし、幸いメスであったことと、少し雑種だったことから体重は二十数キロで止まった。だが、オオカミと闘った祖先には申し訳ないほど気が弱く、散歩中に小猫を見ても大きな体をしているのに立ちすくんでしまう。   家族の愛情を一身に集めたが約11年の短い寿命だった。愛犬で一番困ったのは旅行のときであった。家庭内では日本語しか使わないため純粋なイタリア犬なのに自国語が全然わからないこと。このため、旅行に行くのに犬屋に預けるのはあまりにもかわいそうだ。   結局、日本に1カ月ほど帰国旅行したときは、ナポリまで車で運び日本語が達者な大学の同僚夫妻に世話を頼み、1週間前後のときは大学の教え子に自宅に泊まってもらった。犬だって外国語には弱いのである。

 そして、今年の2/19はこんな具合。

坂本鉄男 イタリア便り 誰がために鐘は鳴る

   時計が1軒の家にいくつもある現在と違って、昔は洋の東西を問わず、お寺や教会の鐘の音は冠婚葬祭などの宗教的行事のみならず、時刻を知らせる役割も果たしていた。  日本の童謡「夕焼け小焼け」や、ミレーの名画「晩鐘」などは、寺や教会の鐘の音が子供や農民に遊びや仕事をやめて帰宅する時間が近づいたことを知らせていたことを示す代表的な童謡と絵画である。   ローマから東に約160キロのぺスカッセロリ村は海抜約1千メートルの山地にあり避暑地として名高い。  この村に約1,100年前に創立された「聖ピエトロ・パオロ教会」の司祭アンドレア・フォリオ神父は、村の少子高齢化で教会の鐘が葬式ばかりに鳴るのにうんざりして一計を案じた。「村民の諸君、特に若い女性の皆さん、今度から赤ちゃんが生まれるたびに赤ちゃんの100歳までの長寿を祈り教会の鐘を100回鳴らすことにします」と。奇抜な案に村民は驚いたものの多くが賛成した。  イタリアの少子化は著しく、一昨年の老齢化による死者の数が63万4千人だったのに対し、新生児は44万8千人であった。  これではフォリオ神父が心配するごとく、教会の鐘はまさに「誰(た)がために鳴る」のか問いたくなる。

 坂本先生は1930年3月のお生まれなので、そろそろ90歳。すごい、の一言である。代わりの人材がいないというよりは、余人に代え難いのである。一昔前の研究者にはこういう傑物・快物がごろごろいた、という印象があるが、現在は、一見情報があふれかえっていて、その中に埋没を余儀なくされ、しかもその実その大半はつぶやいた途端に消え去る泡沫情報といっしょの運命をたどるようで、昨今の思考の軽さはなんなのだろう。なんだかな、と慨嘆したくもなる。

 又、最近私が注目しているのが「ARCHAEOLOGY NEWS NETWORK」の「Archaeology」である(https://archaeologynewsnetwork.blogspot.com/#Pu8yKs0jVC7UIz6m.97)。ここに掲載されたトピックスを他のウェブ記事を加味して継続的に紹介するだけでも、かなりの有益な情報を共有することができると思うのだが。といっても、なにしろ量が多いので、自分の持ち領域をそれぞれ分担する仲間が数人いるといいな、と思ったりしている。なにせ古代ローマの考古学は日本ではまだ黎明期以前、地中海のそれを紹介するだけで意味あることだと、私など思っているのだけれど。

 しかも、である。このHPを見ていると、新発掘の情報のみならず、遺跡で観光客が遺物を失敬して捕まった記事(やっぱり、ね)、それから、エジプトやギリシアが遺物を持ち帰った西欧諸国の博物館に返還要求をし、それを拒否したり、返したりしている記事、それどころか盗難品が出てきたの、また博物館がフェイクを掴まされているのが判明したの、といった普通おもてに出ない情報も出ていて、なかなか目端がきいてセンスがいいのである。

【追記】2021/4/6に久々に「イタリア便り」をチェックしたが、昨年12月15日までで、その後の転載がない。・・・・

【追記2】2021/6/23付産経新聞情報があった:「イタリアから45年以上コラム執筆 坂本鉄男氏引退」(https://www.sankei.com/article/20210623-PG73V2PG5RMIPPQF4IHNQHFDUI/)。以下最初の方だけ無断転載する(そのあと、幾つかの記事が再掲されていて、私もお世話になった故ピタウ大司教の話も出てきて・・・)。写真も掲載されているが、近影とはいえず2003年のものだが、私も歳とって思うことは、写真だけは元気なころのものが絶対いい、と。

  産経新聞国際面で外信コラム「イタリア便り」などを45年以上執筆してきた坂本鉄男氏(91)がこのほど引退することになりました。長年のご愛読、ありがとうございました。

  坂本氏は東京外大助教授を経て1971年からイタリアのナポリ東洋大教授を務め、2002年の退官後もローマに在住してきました。イタリア語に関する著作や訳書、編纂(へんさん)にあたった辞書が多数あります。

  現地での研究・教育活動の傍ら、1970年代半ばから昨年12月までの長きにわたり、産経新聞の嘱託で毎週のようにイタリアとバチカン市国に関するコラムを執筆しました。

  79年に本紙コラム「イタリア通信」(当時の名称)でイタリア文化会館のマルコ・ポーロ賞を受賞。83年には日伊文化交流への功績でイタリア共和国功労勲章コンメンダトーレ章、2000年に日本国勲三等瑞宝章を授与されました。

■坂本鉄男氏の話

日本の家庭の食卓でスパゲティやピザなどイタリア料理が一般的になり、イタリアを訪れる日本人観光客は驚くほど多い。そこで日本人はイタリアをよく知っているような錯覚を抱くが、実際には日本人のイタリアおよびバチカン市国に関する政治・社会・文化的知識は非常に乏しい…。

この間隙を埋めたいと考えたことが、産経新聞の依頼でイタリアに関するコラムや記事を書くようになった理由である。「客員特派員」という肩書を付けられていた時期もあるが、正式の記者や社員だったことは全くない。新聞社と一般稿者という奇妙でまれなる関係のまま40年以上、自分の目で見た現実のイタリアを読者に伝えてきたわけである。

こうした関係上、話題の選択などは私個人の経験と責任で自由に行うことができたことは幸いであったと言わねばならない。産経新聞と読者諸氏に改めてお礼を述べたい。

 一抹の寂しさを感じざるを得ないが、本当に長い間ご苦労様でした、と言いたい。

【追記3】2022/8/26 最近、このWebを訪問する人がちらほらいて、気になったのでひょっとしてと思ってぐぐったら、案の定でした。ご冥福をお祈りいたします。

https://www.sankei.com/article/20220429-B2T4NGH7CNL4RO55EDMZG2K5ZI/

坂本鉄男氏が死去 本紙コラム「イタリア便り」執筆

2022/4/29 19:37

「イタリア便り」の坂本鉄男氏(2003年7月撮影)
「イタリア便り」の坂本鉄男氏(2003年7月撮影)

産経新聞で外信コラム「イタリア便り」を45年以上執筆した坂本鉄男(さかもと・てつお)氏が28日、イタリア・ローマの自宅で死去した。92歳。葬儀は未定。東京外大助教授を経て、イタリアのナポリ東洋大教授を務め、2002年の退官後もローマに在住。1970年代半ばから2020年12月まで産経新聞の嘱託でイタリアやバチカン市国に関するコラムを執筆してきた。

【追記4】別情報によるとなんだか壮絶な情報が。いったい何があったことやら。https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%9D%82%E6%9C%AC%E9%89%84%E7%94%B7

Ex prof giapponese uccide la moglie e poi fa harakiri: omicidio suicidio rituale a Roma La Sicilia 2022/04/29

 ビックリしてイタリア在住者に問い合わせた。即答で返事があり、それによると、1歳年下の奥さまが長らく寝たきりで回復の見込みなく苦痛もひどかったという事情があったようだ。ご本人はどうやらharakiriではなく、セネカ的手段だったらしい。痛ましいことであるが、あまりにも日本人的な選択で言葉もない。西欧だったら尊厳死への段取もとれたのでは、とつい思ってしまうのだが。

ただただ、ご夫婦のご冥福をお祈りします。

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