音姫さまをめぐって:トイレ噺(22)

 以前(2019/10/14)イタリアがらみでちょっとだけ触れた朝日新聞の郷富佐子さん、その後どうされているのかと思い立ってぐぐってみたら、2020年段階で日本にかえって3年目となっていらっしゃった。で、彼女が書いた記事をひとつ紹介しておきたい。これって無料で読めますよね。

「のっけからトイレの話で恐縮ですが……」(2018/6/13)(https://globe.asahi.com/article/11553212)。ここでは文化比較論の前半は省略して、後半だけ念のため転載してみます。

日本のトイレは世界の関心事 

4月17日のイギリス英国メディアのガーディアン(ウェブ版)に、こんな見出しのニュースが載っていた。

「中国の『トイレ革命』を日本が支援へ」

見出しに続き、太字で「ハイテクトイレの国が、習近平(シーチンピン)国家主席が目指す中国全土のトイレ改善に技術的支援を申し出た」とあった。

中国の「トイレ革命」を伝えるガーディアンのウェブサイト

もともとは昨年12月、自民党の二階俊博幹事長が北京にある中国共産党の中央党学校を訪問した際、日中間の協力強化を表明したのが発端だったらしい。協力分野に、トイレの衛生と質の向上を含めたという。

調べてみると、習主席はこの分野にかなり熱心なようだ。2014年12月に初めて「トイレ革命」に言及しており、「揺るぎなく推進せよ」と指示を出している。中国に駐在する朝日新聞の特派員も昨年、「習近平が旗を振る『トイレ革命』」というデジタル向けの記事を書いた。

上海市内のTOTOのショールーム=2017年1月、冨名腰隆撮影

 確かに、洗浄機付きのトイレは日本が誇れる優れた発明品だと思う。日本で暮らした外国人が、帰国するときに「アレを持って帰りたい」と言うのを何度も聞いたことがある。実際、少しずつではあるが、海外のホテルなどでも広まってきていると感じる。

一方で、同じハイテクトイレでも「音消し機能」の方には違和感を覚える外国人は多い。確かに、これまで100近い国や地域を旅してきたが、日本以外で普及している国はひとつもなかった。

トイレの「音」をめぐる比較文化論

最近、羽田空港の荷物受け取りエリアで女子トイレに入ったとき、こんなことがあった。

早朝着の便だったせいか、女子トイレで先客はオーストラリア人の母娘だけだった。すごく元気な女の子は4、5歳くらいか。お母さんが「ママも一緒に入ろうか」と申し出たが、自信満々で「ノー。一人でできるから」と断った。

ところが個室へ入り、ドアを閉じたとたん、「ザザザザザー」という、あの音が。

「ママ!この音、何? 変な音がする」と叫ぶ女の子。焦ったお母さんは、ドアを叩いて「早く出てきなさい!」と命じた。

これは緊急事態だと感じ、思わず助け舟を出した。

「これは排泄音を消す音ですよ。日本の女子トイレには、だいたい付いている機能なのです」

お母さんは「そうなんですか。でも、ずいぶん大きな音ですね」と驚きつつ、ややほっとした様子をみせた。

なんとか用をすませて個室から出てきた女の子は、心配で待っていた私のところに来て、真剣な表情で質問をぶつけた。

「あれは、おしっことかうんちの音を消すためのものなの? 聞こえたらいけないの?」

お、そうきたかと思った。

「個人的には、いけなくないと思う。自動じゃなくて自分でボタンを押すタイプなら、私は押さない。でも日本では、おしっこの音を『恥ずかしい(embarrassing)』と思う人が多いのよ」と答えた。女の子は、「恥ずかしい……」とおうむ返しに言い、じっと考えているようだった。

 日本通のイタリアの友人は、「あのマスキング音の方が、『本物』よりずっとヘンな音ではないか。オープンな電車内で化粧するのは平気なのに、超プライベートな空間のトイレの個室内で出す排泄音が恥ずかしいなんて、日本人は不可解だ」という。どうだろう。

逆に知人の日本人女性はオーストラリア旅行中、音消しに困って排泄中にも水を流してごまかしたそうだ。この機能はもともと、排泄音を消すために何度も水を流すのを避けようと、節水目的で1980年代に発明されたとも聞く。

でも、乾燥大陸で慢性的な水不足に悩むオーストラリアでは、「あんたが出す音なんかどうでもいいから、貴重な水を無駄にしないでくれ」と怒られそうである。

私は入ったことがないが(当然だ)、聞くところによると、日本でも男子トイレだと音消し機能が付いていないことが多いようだ。ならば、これは日本の女子トイレ特有の機能なのだろう。

「恥ずかしさ」の基準は、国によってかなり違う。このあたりをトイレ的観点から、比較ジェンダー論としてまじめに研究してみたいような気もする。

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 はい、男子トイレに音姫さまはいらっしゃいません。どころか、男女共用の私の自宅には乾燥ボタンもついてますが、わが以前の職場の男性トイレにはそれもついてません(ばかりか、水量や温度の調節機能もない)。とはいえ、私は乾燥ボタン使ったことがない。依然としてトイレットペーパーで水気をぬぐっている守旧派である。紙資源のこと考えたら乾燥させたほうがいいいのだろうが、早飯早糞がモットーのワンゲル気質のせいだろう。そういえば、洗った手を乾かす機械(現在はなぜか使用禁止になっているが)も使ったことがないなあ。

 とまれ、他にも彼女は、安全なはずの日本でのチカン問題、五輪と政治問題、などに相対的視野から触れ、固定観念増幅の記事になっていないかという視点から論じていて、私にはとても示唆的なのだが、それが時に自ら身を置いているマスコミ批判にも直結しているところがすごいと思う。ところで気になったのは、彼女の記事が2019年2月20日で途切れていることだ。時期的に年度末なので、ひょっとしたら退職されたのか・・・。私は彼女の隠れファンなので、第二の人生でのご活躍を心よりお祈りしております。

【追伸】2021/2/17:広島駅で男子トイレに入った。そこには「ビデ」も「音」も、調節類もあった。

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