日本敗(終)戦記念日考:飛耳長目(53)

 私は太平洋戦争終結とされる8/15を「終戦記念日」ではなく「敗戦記念日」と表現するのを当然と考えている。理由は語る必要もなく明白である。それを「終戦」表現したのは、当時の政権(正確には、補弼)担当者だった鈴木貫太郎ないし、文書作成に呻吟したはずの内閣書記長官迫水久常あたりが敗戦という事実を薄め糊塗すべくひねり出したものであろう。おそらく臥薪嘗胆、再起を期しての未来先取りを射程に入れてのことだったのではないか(連動して付言しておく。教科書にすら1946/1/1の天皇の「人間宣言」と掲載されているが、文言として一切その記載がない事実に気付くべきだ。これは在職中の「史学概論」関係の授業でも扱ったが、私的には天皇の戦争責任・天皇制廃止をナシにする布石で、GHQを含めてのマスコミの意図的大誤報と思っている。見出しだけ見て、内容を精査しない庶民を愚民視して誘導している典型かと)。 

 戦勝国側で一番明確なのは戦艦ミズーリ上での降伏調印式をもって9/2を「VJデー」(対日戦勝記念日)としているアメリカであるが、8/15以後も戦闘を継続していた旧ソ連や、蒋介石と内戦中だった中華人民共和国にとって、対日勝利日はそう簡単でない複雑な事情があった(https://toyokeizai.net/articles/-/80286)。同じ敗戦国ドイツでは「戦争終結」Kriegsendeや「敗戦」Niederlage im Kriegという言葉はあっても「終戦」を示す語はない上に、あとから「(ヒトラー体制からの)解放日」Befreiungという解釈も出てきているほどで(1975年シェール西ドイツ大統領、1985年フォン・ヴァイスゼッカー西ドイツ大統領演説、もちろん批判もあった:http://www.desk.c.u-tokyo.ac.jp/download/es_7_Saaler.pdf)、このあたり日独の認識の違いは興味深い。やはりドイツ人は大人なのだろうか。もう一つの同盟国(のはずの)イタリアは、なんと大戦末期のレジスタンス(実際はマフィアの功績か)のゆえに戦勝国と認められ、日独と差別化され国連の敵対条項の対象にすらなっていない。イタリア人はドイツ以上にもっと大人なのであ〜る(弱かったくせに)。

 さりながら、私がここで問題にしたいのは、ではなぜ日本ではポツダム宣言受諾(連合国への通告は8/14)を告げた天皇の「玉音放送」の日をもってそれと認識しているか、という問題である。ここにいい意味でも悪い意味でも日本的心情が吐露されていると思うからだ。

 端的に結論を述べるなら、臣民にとって初めて接した天皇の肉声でのラジオ放送が、それだけ衝撃的で大きな意味を持っていたということであろう。なにしろ戦闘状態にあった皇軍は天皇の鶴の一声でおおかた矛を収めて休戦し降伏したのである(勿論例外はあった)。

 もうひとつ、敬虔なる仏教徒の日本人庶民からしてその日を受容しやすい事情があった。8/15が年中行事に深く根付いていたお盆にたまたまあたっていたからである(旧暦では7/15あたりだったが、明治以降の新暦で8/15が定着ずみ)。先祖慰霊に戦没慰霊が重なっての合葬は庶民感覚として十分に納得できる。

 ついでに書いておくと、その日は、カトリックでは6世紀以降「聖母被昇天の大祝日」であった。但しそれがローマ教皇ピオ12世により信仰箇条(ex cathedra)に定められたのは1950年のことだったが。400年先行する1549年のその日、鹿児島上陸時に聖母に日本を捧げたのはフランシスコ・ザビエルであった。しかし、さらにそれに遡ること15年前の1534年のその日に、彼やイグナティオ・ロヨラら7名によりパリでイエズス会が結成されていて、と史実をさかのぼっていくと、ザビエルの鹿児島上陸日など、疑い深い私はなんだかできすぎの話に思えてくるのだが。

 思い出しついでに。スペインでサンチャゴの徒歩巡礼していたときのこと。巡礼路は麦を刈り取った畑の中の道だったのだが、時折それまで聞き慣れなかった「パンパン」という音がして、なんと猟銃を持った男性と走り回る猟犬がちらほら。うれしそうに腰には獲物のウズラかなんかをぶら下げている。スペイン語が堪能な連れが聞いたところでは、8/15が狩猟の解禁日なんだそうだ。よりによって聖母被昇天の大祝日がスペインでは殺生開始の日とは、天上のマリア様もご存じあるまい。野鳥や野生動物にとっては受難の始まりということで、猿に間違われたり、流れ弾にあたらないよう首をすくめながらそそくさと歩いたことを思い出す。

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